『組織マネジメントの研究Vol.18』【トップマネジメント】
テーマ毎のまとめ(マネジメント『基本と原則』/P.F.ドラッガー)
14.トップマネジメント
【1】トップマネジメントの役割
●多元的な役割
トップマネジメントの役割は多元的である。
①事業目的を考える役割
「われわれの事業は何か。何であるべきか。」を考えなければならない。
派生的に「目標の設定」、「戦略計画の作成」、「明日のための意思決定」という役割が生じる。
②組織全体の規範を定める役割
ビジョンと価値基準を設定しなければならない。目的と実績との違いに取り組まなければならない。
③組織をつくりあげ、それを維持する役割
人材特にトップマネジメントを育成しなければならない。組織にとっての基準となる組織の精神(行動、価値観、信条)をつくりあげなければならない。組織構造を設計しなければならない。
④渉外の役割
顧客、取引先、金融機関、労働組合、政府機関との関係である。それらの関係から、環境問題、社会的責任、雇用、立法に対する姿勢についての決定や行動が影響を受ける。
⑤儀礼的な役割
行事や夕食会への出席など。
⑥重大な危機・問題に取り組む役割
あらゆる組織にとって、トップマネジメントの機能は不可欠である。問題は、トップマネジメントとは何かではない。「組織の成功と存続に致命的に重要な意味を持ち、かつトップマネジメントだけが、行いうる仕事は何か」である。
●トップマネジメントの役割の特徴
トップマネジメントに課される役割は、各種の能力、さらには各種の性格を必要とする。少なくとも四種類の性格が必要である。「考える人」「行動する人」「人間的な人」「表に立つ人」である。これら四つの性格を合わせもつ者はほとんどいない。
トップマネジメントとは何であり、何でなければならないかは客観的に規定される。トップマネジメントの役割が、課題としては常に存在していながら仕事としては常に存在しているわけでないという事実と、トップマネジメントの役割が多様な能力と性格を要求しているという事実とが、トップマネジメントの役割のすべてを複数の人間に割り当てることを必須にする。
【2】トップマネジメントの構造
●チームで行うべき仕事
トップマネジメントとは、一人ではなくチームによる仕事である。トップマネジメントの役割が要求するさまざまな体質を一人で合わせ持つことは不可能である。しかも一人ではこなしきれない量の仕事がある。健全な企業では、トップマネジメントの役割はほとんど常にチームで遂行している。
ヘンリー・フォードの晩年、フォード社が衰退し倒産の危機に陥ったのは、彼がトップマネジメントをチームで行うことをやめ、ワンマンになったからだった。
●役割の分担
独裁の危機を防ぐための方策としての唯一の方法は、役割の一つを、トップマネジメントのメンバーに直接かつ優先的に割り当てることである。しかも大企業においては、トップマネジメントの責任を担う者は、トップの役割ではない責任を担わなくてもすむようにすることである。
最近の大企業には、事業部グループの現業の長をつとめなれば、トップマネジメントの役割を果たそうとするケースがあるが、それではトップマネジメントとしての貢献ができなくなる。
●トップのための組織の条件
トップマネジメントの組織構造もまた、「仕事の分析」からスタートしなければならない。しかる後に、それらの仕事を特定の人間に割り当てなければならない。その者が直接的かつ全面的に責任を負わなければならない。責任は、チームのメンバーそれぞれの資格、性格、体質に応じて割り当てる。責任を割り当てられた者は、肩書に関わりなくトップマネジメントの一員である。単純で小規模な企業を除き、トップマネジメントとしての責任を負う者は、トップマネジメント以外の仕事をしてはならない。
●チームワーク
トップマネジメントがチームとして機能するには、いくつかの厳しい条件を満たさなければならない。人間関係に関わりなく、機能しなければならない。
①メンバーは、それぞれの担当分野において最終的な決定権を持たなければならない。
②メンバーは、自らの担当以外の分野について意思決定を行ってはならない。
③メンバーは、仲良くする必要はない。尊敬し合う必要はない。ただし、攻撃し合ってはならない。会議室の外で批判してはならない。褒め合うこともしない方が良い。
④トップマネジメントは委員会ではない。チームにはキャプテンがいる。キャプテンはボスではなくリーダーである。キャプテンの役割の重さは多様である。キャプテンは欠くことができない。全体の危機に際しては、一貫した命令系統が不可欠である。
⑤メンバーは自らの担当分野では意思決定を行わなければならない。しかし、ある種の意思決定は留保しなければならない。チームとしてのみ判断しうる問題がある。チーム内で検討すべき問題は、あらかじめ決めておく必要がある。
⑥トップマネジメントの仕事は、意思疎通に精力的に取り組むことを要求する。各メンバーの自立性は、自らの考えと行動を周知徹底させているときにのみ許される。
【3】取締役会
●取締役会は機能していない
あらゆる国の取締役に共通することが一つある。それは、どれも機能を果たしてないという事実である。取締役会の衰退はあらゆる国で見られる。企業の破局に際して、問題の発生を常に最後に知らされる集団だったという事実が端的に示している。
①今日、先進国の大企業の所有権は、少数の金持ちではなく大衆の手にある。取締役会は、もはや所有者を代表しない。誰も代表しない。
②今日、取締役会は統治機構たりえなくなっている。統治とは常勤の職務である。非常勤ではざっと目を通すだけで精一杯である。徹底的な検討などできない。
③そもそもトップマネジメントは、意味ある取締役会を望まない。意味ある取締役会はトップマネジメントに成果と業績を要求する。成果と業績をあげないトップマネジメントを排除する。これこそ取締役会の役割である。
トップマネジメントの多くは、取締役会の衰退に不都合はないと反論する。彼らは、取締役会が虚構になったことに満足する。完全に消滅することさえ望む。完全な社内取締役会になっていいるならば、すなわち、トップマネジメントが完全に支配しているならば、取締役会はすでに消滅したといってよい。
●社会の要求
トップマネジメントが意味ある取締役会を育てたいならば、社会から不適切な取締役会を押し付けられる。押し付けられた取締役会は、トップマネジメントを支配し、ボスになろうとする。取締役会にあらゆる種類の利害集団から取締役のメンバーが任命されても、機能できない。彼らの忠誠は、企業に対してではなく、自らの属する集団や階層に対してのものである。
トップマネジメントがいかなる種類の取締役会が必要とされているかを検討しなければならないことを意味している。
●取締役会の三つの機能
機能する取締役会が必要とされているのは、三つの理由からである。
①審査のための機関が必要である。
トップマネジメントに助言し、忠告し、相談相手となる機関が必要である。トップマネジメントの役に立つだけでなく、危機にあって英知と決断を持って行動する機関が必要である。
②成果をあげられないトップマネジメントを交替させる機関が必要である。
③渉外のための機関が必要である。
企業は諸々の利害当事者と直接接触しなければならない。株主がその一つである。従業員も明らかに利害当事者の一つである。地域社会、消費者、取引先、流通チャンネルも、利害当事者である。これらのすべてが企業の現状、問題、方針、計画を知らなければならない。
要点整理
【1】トップマネジメントの役割
●多元的な役割
①事業の目的を考える役割
②ビジョン、価値基準を定める役割
③人材育成と組織精神(行動指針、価値観、信条)、組織構造を定める役割
④渉外の役割
⑤儀礼的な役割
⑥重大な危機に対処する役割
●トップマネジメントの役割の特徴
①考える人、②行動する人、③人間的な人、④表に立つ人
【2】トップマネジメントの構造
●トップマネジメントはチームで行わなければならない。
●仕事の分析をした上で、それぞれが担当する役割を持たなければならない。
●トップマネジメントの責任は資格、性格、体質に応じて割当てなければならない。
●トップマネジメントがチームとして機能するためには、いくつかの条件を満たさなければならない。
・担当分野におけるトップマネジメントが最終的な決定権をもつこと。
・チームとして判断すべきことは留保すること。また、その内容を事前に決めておくこと。
・それぞれのトップマネジメントが自立性を担保するために精力的な意思疎通を行うこと。
【3】取締役会
●取締役会は、機能していない。
取締役会がトップマネジメントにとって都合よく、社内取締役会的な存在になっているのであれば、消滅したと言ってよい。
●取締役会には三つの機能がある。
①審査のための機関、②成果をあげられないトップマネジメントを交替させる機関、③渉外のための機関
所 見
◆トップマネジメントの役割について
●多元的な役割
特に、目的、ビジョン、人材育成はとても重要なテーマだと思う。
①目的について
目的とは、何のためにこの事業をやっているのかというそもそも論。ここがぶれていたら、羅針盤のない舟と同じになる。この本質は徹底して深める必要がある。
②ビジョンについて
どういう世界を目指そうとするのか。全体をどういう世界に導くのか、展望を示すのがビジョンだ。組織全体がワクワクするものであり、賛同しうるものでなければならない。持論だが、ビジョンづくりのためのプロセスとしては、可能な限り多くの仲間と一緒につくることが大切だ。なぜならば、自分の考えが入っているものと、人がつくったにすぎないものとでは、まずスタートから気持ちの乗り方が違うからだ。しかし、単なるごちゃまぜぶつにならないようにする必要がある。そのためには、仕上げとしては、トップマネジメントの責任で一つの哲学としてまとめる必要がある。
③人材育成
目的やビジョンを成就させるためには、それに向けた人材育成は必須だ。大きな枠では、人事も含めた人材育成が上手くいくかによって、組織としての成功、成長の可否が決まるといっても過言ではない。人材育成が上手くいっている組織で人が流出する組織はない。人が流出するということは、人材育成が上手くいっていない証拠である。人材育成の入口は、対話である。単に一元的にやるべきではない。一人ひとり個性、強み、課題は違う。全体で行うべきものと個別に行うべきものを分けて行う必要がある。できれば、本人との対話によってつくられた個別のプランニングがあるべきだ。人材育成の力点は、人間的成長である。人間的成長が仕事の質を高め、日々のイノベーションの土台をつくる。人間的成長の宝庫となっている組織は、エネルギーが漲っている。幸福感をあげる。人を引き寄せる。顧客も職員も。
●トップマネジメントの役割の特徴
ドラッガーは、トップマネジメントの性格として、①考える人、②行動する人、③人間的な人、④表に立つ人が必要だと述べている。そして、全部揃った人間はほとんどいないと述べている。大切なことは、チームでそれぞれ役割を担い行うことと述べている。確かにそうだ。トップマネジメントのチームリーダーが全てを担うことは難しい。しかし、リーダーは絶対に必要である。
重要なことは、トップマネジメントのリーダーたるや、汝自身を良く知っている人間がなるべきだ。独裁的な態度をとる人間は、自らを知らない。自らを知らないが故に、結果を出せない。結果が出ないために、意固地になり、権力に固執しようとする。一時的に結果が出たかのように見える時もあるが、一過性のもので必ず衰退の道をたどる。それぐらい一人の能力、権力に偏った組織は弱いし脆い。結果を残すためには、全知全能でない自分自身を知り、自分にないものを補ってくれるチームが必要である。四つの性格をチーム全体として発揮できれば良い。そして、成果を残すためにも、チームのそれぞれの強みを結集させるマネジメントがトップマネジメントのリーダーには必要である。
※【2】トップマネジメントの構造、【3】取締役会については省略します。
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