『組織マネジメントの研究Vol.16』【マネジメントの組織②】
テーマ毎のまとめ(マネジメント『基本と原則』/P.F.ドラッガー)
13.マネジメントの組織②
【1】組織の基本単位
●四つの問題
組織研究が始まって以来、答えなければならない問題は以下の問題である。
①何を組織の単位とするのか。
②何を一緒にするのか。何を分離するか。
③いかなる大きさと形にするか。
④いかなる位置づけを行い、いかなる関係を持たせる。
●活動分析
組織活動に組み込む活動で知らなければならないのは、組織の重荷を担う部分、すなわち、組織の基本活動である。組織の基本活動を明らかにする三つの問いは以下のものである。
①最初に組織構造の設計は、「組織の目的を達成するには、いかなる分野において卓越性が必要か」
②同時に「いかなる分野において成果があがらないとき、致命的な損害を被るか、いかなる分野に最大の弱点を見るか」
③最後に「本当に重要な価値は何か」
例)安全性、品質、サービス
それが何であれ、それに必要な活動について組織的な裏づけを行わなければならない。責任を負う組織をつくらなければならない。
その他の活動は、いかに重要に見えようと、金をかけていようと、多くの人が従事していようと、すべて二義的である。もちろんそれらの活動についても、分析、組織化、位置づけは必要である。
だが、まず関心を向けるべきは、組織の目標の達成と組織の戦略の成果に欠くことのできない活動に対してである。この基本活動こそ、中心に据えるべきである。目的と戦略からスタートした基本活動についての活動分析だけが、組織が真に必要とする組織構造を教える。
●貢献分析
今日必要とされている深い分析は、組織内の活動を貢献の種類によって分類することである。企業内の活動は、その貢献の種類によって大きく四つに分類できる。
①成果活動
組織全体の成果に直接、間接的に関わりを持つ測定可能な活動。
②支援活動
必要不可欠だが、自ら成果を生むことなく、アウトプットが他の組織単位によって利用されて、初めて成果を生む活動である。
③家事活動
成果と間接的にも関わりのない活動、つまり、付随的な活動である。
④トップ活動(※後述するため保留)
●成果活動
①直接収入をもたらす収入活動。
例えば、病院の治療、学校の学習、マーケティングとイノベーション、資金の調達や管理。
②成果貢献活動
例えば、製造、求人活動、教育訓練、購買や輸送、エンジニアリング、労務など。
③情報活動
情報活動は、組織内のあらゆる者が必要とするアウトプットを生む。この活動は、定義し、測定し、評価することができる。しかし、それだけではいかなる収入も生まない。
●支援活動
成果は生まないが、他の活動に対してインプットとなる活動。
①良識活動
良識活動とは、組織が行うべきことで行っていないことを知るための活動である。日々の現実に対し、理想を持って戦うことであり、あるいは、安易なものを排し、人気のないものを擁護することである。
組織にとって卓越することが必須とされている分野において、基準を設定し、ビジョンを描く活動。いかなる組織といえども、ビジョン、価値、基準、監査を必要とする。
マネジャーの中で、尊敬されているものが行うべき仕事である。少数できれば、一人で行うことが望ましい。
いかなる種類の良識活動かは、組織の目的と戦略によって規定される。あらゆる組織において、人事はこの活動の対象としなければならない。マーケティング、企業活動の環境に対する影響、社会的責任に関わる問題、地域社会との関係、イノベーションと名のつくもの、すべて良識の対象となる。
②伝統的スタッフ活動
助言活動、教育活動がこの活動に属する。その活動自体が何をなし、なしうるかではなく、他の活動に対していかなる貢献をなすかである。
良識活動同様、厳しい原則がある。それは、極力小さくしなければならない。基本活動についてのみ設けなければならない。この種の仕事に適した人は少ない。スタッフ活動を立派なものとするには、他の人の手柄をたてさせることを欲する気質が必要である。他の人がしようとしていることを、よりよくできるよう手助けする心構えが必要である。自らは手を出さず、人が学びとるまで待たなければならない。
スタッフ活動を長期の仕事にしてはならない。成長の過程において一時的に就くべき仕事である。長期にわたってこの仕事をさせるならば、得られるものは堕落である。仕事に精を出すことを軽く見るようになる。正しさよりも頭のよさを大事にするようになる。自らも欲求不満に陥る。自らの成果というものを手にできないからである。人の手を通して間接的に成果をあげるにすぎないからである。スタッフ活動の経験は、トップになる者にとっては、必ず持つべき経験である。とはいえ、一定の期間を超えてはいけない経験である。
③渉外活動
法律スタッフや特許部の活動などの各種の渉外活動も含まれる。
●家事活動
健康管理、清掃、食堂、年金、退職基金の管理、政府指定の記録類の管理など。直接成果に貢献するものではないが、組織に害を与え得る活動である。それらの活動は、法的な義務、働く人たちの勤労意欲、社会的責任に関わる活動だからである。この活動は軽くみられがちである。さえない仕事と見られがちである。
果たすべき貢献の種類の違う活動は、それぞれ別個に扱われなければならない。原則は、同一の貢献を果たす活動は、同一の部門にまとめ同一のマネジャーの元に置くことである。同一の貢献を果たさない活動を一緒にしてはならない。
●決定分析
「成果を手にするには、いかなる種類の意思決定が必要か」「それらの意思決定をいかなるレベルで行うか」「いかなる活動がそれらの意思決定によって影響を受けるか」。したがって、「いかなる部門のマネジャーが、いかなる意思決定に参加し、相談を受け、あるいは意思決定の結果を知らなければならないか」。これらの問いに対する答えが、組織における仕事の位置づけを左右する。
意思決定の権限や責任を与えるには、意思決定そのものを分類しておかなければならない。
しかし、政策的意思決定と実施上の意思決定という分類、意思決定に関わる金額による分類も無意味である。
組織内の意思決定は、四つの観点から分類する必要がある。
①影響する時間の長さによって分類する。
その意思決定によって、将来どの程度の期間にわたって、行動を束縛されるか。どの程度すみやかに修正できるか。
②他の部門や他の分野、あるいは組織全体の与える影響の度合いによって分類する。
その影響が部門内にとどまる意思決定は低いレベルで行うべきである。他の部門に影響を与え宇意思決定は、一段高いレベルで行うか、影響を受ける部門と協議のうえ行わなければならない。一つの職能あるいは一つの分野における最適化を、他の職能や他の分野での犠牲によって達成しようとしてはならない。
③考慮に入れるべき定性的要素の数によって分類する。
ここにいう定性的要素とは、企業の行動原則、価値観、社会的政治的な信条を指す。価値観の問題が入ってくる問題については、意思決定を高度のレベルにおいて行うか、高度のレベルにおいてチェックしなければならない。定性的要素のうちもっとも重要な要素が人である。
④問題が繰り返し出て来るか、まれにしか出てこないかによって分類する。
繰り返し出て来る問題については、原則を決定しておけばよい。人の問題などの原則についての決定は高いレベルで行わなければならない。しかし実際の適用は、低いレベルに委ねてよい。これに対して初めての問題は、それ自体一つの独立した事件として扱わなければならない。
●意思決定の原則
第一の原則(どの程度の低さで行うべきか)
意思決定は常に、可能なかぎり低いレベル、行動に近いところで行う必要がある。
第二の原則(どの程度の高さで行うべきか)
意思決定は、それによって影響を受ける活動全体を見通せるだけの高いレベルで行う必要がある。意思決定に参画すべき者や、その結果を知らされるべき者の範囲が明らかになる。
この二つの原則から、個々の活動を組織のどこに位置付けるかが明らかになる。
●関係分析
組織構造の設計の最終段階は、活動相互間の関係の分析、すなわち、関係分析である。これによって初めて組織単位の位置づけを決定できる。
「どこの誰と協力して働かなければならないか」「どこの誰に対して、いかなる種類の貢献を行わなければならないか」。逆に「どこの誰から、いかなる種類の貢献を受けることができるのか」。活動間の関係を最小限に絞ることが、組織構造における活動の位置づけについての原則である。致命的に重要な関係は、円滑、密接、中心的な関係としなければならない。すなわち、活動間の関係は、重要な意味あるものだけに限らなければならないということである。
決定分析による活動の位置づけと関係分析による活動の位置づけの間には、矛盾が生じることがある。その場合には、関係分析の結果に従わなければならない。
これら活動分析、貢献分析、決定分析、関係分析の四つの分析は、さほど手間のかかるものではない。小企業では数時間で行えるし、紙も数枚で足りる。
いかなる場合においても、これらの分析をおろしかにしてはならない。あらゆる企業にとって、必要不可欠な作業であり、しかも必ずうまく行わなければならない作業である。
●悪い組織
完璧な組織構造などありえない。せいぜいできることは、問題を起こさない組織をつくることである。
①マネジメントの階層が増加すること
組織の原則は、階層の数を少なくし指揮系統を短くすることでなければならない。階層の増加は、組織内の相互理解と協同歩調を困難にする。目標を混乱させ、まちがった方向に注意を向けさせる。
必要な階層の数については、西欧社会における最古にして最大のもっとも成功している組織、カトリック教会が参考になる。ローマ法王と最下層の教会司祭の間には、権限と責任に関わる階層は、ただ一つ存在するだけである。司教である。
②組織構造に関わる問題が頻繁に発生すること
問題の解決は、正しい分析以外にない。それは、活動分析、貢献分析、決定分析、関係分析である。繰り返し出て来る組織構造上の問題を、紙の上の調整で解決しようとしてはならない。必要とされるものは、思考であり、明晰さであり、理解である。
③要となる者の注意を重要でない問題や的外れの問題に向けさせること
組織構造は、重要な問題、基本活動、成果、業績に関心を向けさせるものでなければならない。就業態度、礼儀作法、手続きに関心を向けさせてはならない。縄張りに関心を向けさせてはならない。それは人とまちがった方向へ持っていく。そのとき組織構造は、成果に対する障害以外の何ものでもなくなる。
そのような事態もまた、組織を有機的にではなく機械的に組み立てたときに発生する。戦略が要求する組織構造について考え抜くことなく、いわゆる組織論に機械的に従うときに生ずる。成果ではなく、組織構造そのものに焦点を合わせるからである。
④大勢の人間を集める会議を頻繁に開かざるをえなくなること
理想的な組織とは、会議なしに動く組織である。取締役会は別として、その他の会議はすべて組織構造上の欠落を補うためのものと見てよい。
⑤人の感情や好き嫌いに気を使うようになること
このような症状を持つ組織は、だいたいが人員過剰となっている。人の気持ちを傷つけ、ぶつかり合い、足を踏むのは、混んでいるからである。人が過剰な組織では、成果は生まれず仕事ばかり増える。
⑥調整役や補佐役など実際の仕事をしない人たちを必要とするようになること
これは、活動や仕事が細分化されすぎている証拠である。あるいは、活動や仕事が成果に焦点を合わせることなく、あまりにいろいろなことを期待されている証拠である。
⑦組織病
組織中が組織構造を気にしている。常にどこかで組織改革を行っている。組織病は組織構造の基本をおろそかにしたとき発病する。組織改革を手軽に行ってはいけない。これは、いわば手術である。手術には危険が伴う。もともと完全無欠の組織はない。ある程度の摩擦、不調和、混乱は覚悟しておかなければならない。
要点整理
◆組織の基本単位
●四つの問題
組織研究が始まって以来、答えなければならない問題は以下の問題である。
①何を組織の単位とするのか。
②何を一緒にするのか。何を分離するか。
③いかなる大きさと形にするか。
④いかなる位置づけを行い、いかなる関係を持たせる。
●活動分析
組織の目標の達成と組織の戦略の成果に欠くことのできない活動、すなわち、組織の基本活動を明らかにする三つの問い。
①「組織の目的を達成するには、いかなる分野において卓越性が必要か」
②「いかなる分野において成果があがらないとき、致命的な損害を被るか、いかなる分野に最大の弱点を見るか」
③「本当に重要な価値は何か」
関心を向けるべきは、組織の目標の達成と組織の戦略の成果に欠くことのできない活動に対してである。
●貢献分析
今日必要とされている深い分析は、組織内の活動を貢献の種類によって分類することである。①成果活動、②支援活動、③家事活動、④トップ活動(※後述するため保留)
①成果活動
(1)直接収入をもたらす収入活動
例)治療、学習を生み出す活動、マーケティング、イノベーション、資金調達・管理
(2)成果貢献活動
例)求人活動、教育訓練、購買、輸送、エンジニアリング、労務
(3)情報活動
②支援活動
(1)良識活動
組織にとって卓越することが必須とされている分野において、基準を設定し、ビジョンを描く活動。組織目的、戦略によって規定。マネジャーの中で、尊敬されているものが行うべき仕事である。少数できれば、一人で行うことが望ましい。例)人事、マーケティング、社会との関係、イノベーション
(2)伝統的スタッフ活動
助言活動、教育活動がこの活動に属する。スタッフ活動の経験は、トップになる者にとっては、必ず持つべき経験である。とはいえ、一定の期間を超えてはいけない経験である。(3)渉外活動
法律スタッフや特許部の活動などの各種の渉外活動も含まれる。
③家事活動
健康管理、清掃、食堂、年金、退職基金の管理、政府指定の記録類の管理など。
☆原則は、同一の貢献を果たす活動は、同一の部門にまとめ同一のマネジャーの元に置くことである。
●決定分析
組織内の意思決定は、四つの観点から分類する必要がある。
(1)影響する時間の長さによって分類する。
(2)他の部門や他の分野、あるいは組織全体の与える影響の度合いによって分類する。
(3)考慮に入れるべき定性的要素の数によって分類する。
定性的要素とは、企業の行動原則、価値観、社会的政治的な信条を指す。価値観の問題が入ってくる問題については、意思決定を高度のレベルにおいてチェックしなければならない。(4)問題が繰り返し出て来るか、まれにしか出てこないかによって分類する。
●意思決定の原則
第一の原則(どの程度の低さで行うべきか)
意思決定は常に、可能なかぎり低いレベル、行動に近いところで行う必要がある。
第二の原則(どの程度の高さで行うべきか)
意思決定は、それによって影響を受ける活動全体を見通せるだけの高いレベルで行う必要がある。
この二つの原則から、個々の活動を組織のどこに位置付けるかが明らかになる。
●関係分析
組織構造の設計の最終段階は、活動相互間の関係の分析、すなわち、関係分析である。これによって初めて組織単位の位置づけを決定できる。
☆これら活動分析、貢献分析、決定分析、関係分析の四つの分析をおろそかにしてはならない。あらゆる企業にとって、必要不可欠な作業であり、しかも必ずうまく行わなければならない作業である。
●悪い組織
完璧な組織構造などありえない。せいぜいできることは、問題を起こさない組織をつくることである。
①マネジメントの階層が増加すること
②組織構造に関わる問題が頻繁に発生すること
③要となる者の注意を重要でない問題や的外れの問題に向けさせること
④大勢の人間を集める会議を頻繁に開かざるをえなくなること
⑤人の感情や好き嫌いに気を使うようになること
⑥調整役や補佐役など実際の仕事をしない人たちを必要とするようになること
⑦組織病。 常にどこかで組織改革を行っていること。
所 見
(1)四つの組織分析視点
ドラッガーは、「活動分析、貢献分析、決定分析、関係分析の四つの分析は、あらゆる企業にとって、必要不可欠な作業であり、しかも必ずうまく行わなければならない作業である」と述べている。これらの分析的視点は、組織構造をどのようにつくるかだけではなく、現在ある組織の状態を科学的視点で分析するためにも、重要な示唆を与えてくれると思う。
(2)組織づくりで大切にしてきた自らの視点
正直、私の経験として、意識的にそれらの視点で組織を組み立てるということをしたことはなかったが、大きく崩れることはなかった。それは、ドラッガーも述べているが、組織構造ありきで組織を組み立てをするのではなく、組織目標の達成と成果に導くための戦略から組み立てていったからだと思う。また、トップダウンではなく、顧客、末端ユーザー、現場での必要性をもとに、組み立てていったからだと思う。一番は組織の使命、目的、成果基準に即して組み立てていったからだと思う。
(3)貢献分析において最も重要な活動と思うこと
貢献分析の中の支援活動における良識活動は、直接的利益を生むものではないかもしれながい、一番重要な活動だと思う。内容からしても組織の根幹にかかわるものだからだ。これは、組織全体の方向性を決めるもの、価値の柱となる部分なので、フラットに近いかたちで全体から意見集約をしたとしても、トップマネジメントの中心的活動となるものだと思う。「最も尊敬されているマネジャーが担うもの」、「良識活動」とドラッガーが述べている通り、私利私欲や恣意的になることがない者、真摯さがあり、自律している人間が担うべきものだと思う。
(4)組織改革における自らの体験
組織改革が必要な場合がある。そして、実際に経験してきた。ドラッガーが「手術であり、危険が伴う」と述べている通り、場合によっては、崩壊の危機に瀕することもある。もちろん、多くの場合、四つの分析的視点による組織形態がなされていないのだと思う。
自らの経験から見えてきているもの、組織改革せざるを得ない場合の共通点として見えてきているのは、組織の使命、目的、価値基準の問題である。それらがない、もしくは、あるが絵にかいた餅となっている、それらが無視されている場合に生じているように思う。トップマネジメントの考え方イコール組織の方向性となってしまっていることに起因する場合もある。要するに問題の根本はトップマネジメント自体がその重要性を認識していないが故に起きている。
形骸化した既存の方針の確認にせよ、新しい方針にせよ、あらためて組織の方向性を打ち出す必要がある。改革の時、難しいのは、それらの方向性に共感しない人物ではあるが、能力の高いものの処遇である。本人に残ってもらうために、方針からはずれた妥協をすれば、組織全体に誤ったメッセージを送ることになる。組織が自律的人間の集合体となっていない場合、影響は少なくない。新たな問題の種を引き起こすことになりかねない。もちろん、一番良いのは、何とか共感してもらい、あらためて一緒にやっていくことだが、どうしてもそうはならないことがある。ドラッガーが「組織改革を手軽に行ってはならない」、「安易な組織改革は退けなければならない」と言っているのはそれ故だと思う。
(5)完璧な組織はあるか、完璧な組織はつくれるか
永遠に問題の起きない組織はこの世に存在しない。外からどれだけ上手くやっているように見えていても、何某かの問題、課題はある。どれだけ完璧な組織をつくろうと努力しても必ず綻びは生じる。なぜならば、人間がやっているからだ。自分と他人は違う人格を有するからだ。人間の成長度合いはそれぞれだし、価値観も変わっていくからだ。大切なのは、「本当にこれで良いのだろうか」と自らを省みる姿勢。そして、より善きものを追求する姿勢だと思う。