『組織マネジメントの研究Vol.14』【マネジメントの技能②】
テーマ毎のまとめ(マネジメント『基本と原則』/P.F.ドラッガー)
12.マネジメントの技能②
【1】コミュニケーション
●四つの原理
今日コミュニケーションの試みは、いたるところで見られる。それにも関わらず、明らかになっていることといえば、コミュニケーションは未知のものであるということだけである。実際のコミュニケーションはまだまだ不足している。
すでに我々は、コミュニケーションについて四つの基本を知っている。①知覚であり、②期待であり、③要求であり、④情報ではない。コミュニケーションと情報は相反する。しかし、両者は依存関係にある。
①コミュニケーションは知覚である
コミュニケーションを成立させるのは受け手である。ソクラテスは「大工と話すときは、大工の言葉を使え」と説いた。コミュニケーションは受け手の言葉を使わなければ成立しない。受け手の経験に基づいた言葉を使わなければ成立しない。受け手の知覚能力の範囲外である。コミュニケーションを成立させるためには、受け手が何を見ているかを知らなければならない。
②コミュニケーションは期待である
我々は期待しているものだけを知覚する。期待しているものを見、聞く。期待していないものは受けつけられることさえないということである。見えもしなければ、聞こえもしない。無視される。あるいは間違って見られ、聞かれる。人の心は、期待していないものを知覚すること知覚することに対して抵抗し、期待するものを知覚できないことに対しても抵抗する。受け手が期待しているものを知ることなく、コミュニケーションを行うことはできない。期待するものを知って、初めてその期待を利用することができる。
③コミュニケーションは要求である
コミュニケーションは受け手に何かを要求する。受け手が何かになること、何かをすること、何かを信じることを要求する。それは常に、何かをしたいという受け手の気持ちに訴えようとする。コミュニケーションは、それが受け手の価値観、欲求、目的に合致するとき強力となる。逆に、それらのものに合致しないとき、まったく受けつけられないか抵抗される。
合致しないときでも、コミュニケーションが力を発揮したときには受け手の心を転向させることができる。受け手の信念、価値観、性格、欲求までも変える。だが、そのようなケースは、人の存在に関わる問題である、しかるがゆえにまれである。人の心は、そのような変化に対し激しく抵抗する。
キリストさえ、迫害者サウロを使途パウロとするには、サウロをひとたび盲目にする必要があった。受け手の心を転向させることを目的とするコミュニケーションは、受け手に全面降伏を要求する。
④コミュニケーションは情報ではない
コミュニケーションと情報は別物である。ただし依存関係にある。コミュニケーションは知覚の対象であり、情報を論理の対象である。情報は形式であって、その自体に意味はない。情報には人間はいない。人間的な要素はない。むしろ情報は、感情、価値、期待、知覚といった人間的な属性を除去するほど、有効となり信頼度も高まる。
しかし、情報は、コミュニケーションを前提とする。情報の送り手と受け手の間に、あらかじめなんらかの了解、コミュニケーションが存在しなければならない。
コミュニケーションは、必ずしも情報を必要としない。実際いかなる論理の裏づけもなしに経験を共有することこそ、完全なコミュニケーションをもたらす。
●上から下へ、下から上へ
上から下へでは、いかに懸命に行おうともコミュニケーションは成立しない。「何を言いたいか」に焦点を合わせているからである。コミュニケーションを成立させる者は発し手であると前提しているからである。下の者の言うことを聞いたからといって、問題の解決にはならない。耳を傾けることは、コミュニケーションの前提である。だが、耳を傾けるだけでは効果的なコミュニケーションを実現しない。下の者にコミュニケーション能力があって初めてコミュニケーションが有効となるということである。
●コミュニケーションの前提となるもの
目標管理こそコミュニケーションの前提となる。目標管理においては、部下は上司に向かい、「企業もしくは自らの部門に対して、いかなる貢献を行うべきであると考えているか」を明らかにしなければならない。目標管理の最大の目的は、上司と部下の知覚の仕方の違いを明らかにすることにある。
実はこうして同じ事実を違ったように見ていることを互いに知ること自体が、コミュニケーションである。意思決定というものの実体、優先順位の問題、なしたいこととなすべきこととの間の選択、そして何よりも意思決定の責任など、上司の抱える問題に接することができる。上司の立場の複雑さは理解する。
コミュニケーションが成立するには、『経験の共有』が不可欠だということである。
組織において、コミュニケーションは単なる手段ではない。それは『組織のあり方』である。これこそ、われわれがこれまでの失敗から学んできたことであり、コミュニケーションを考えていくうえでもっとも重要な基本とすべき結論である。
【2】管理
●管理手段の特性
組織における管理手段には三つの特性がある。
①管理手段は純客観的でも純中立的でもありえない。
測定という行為は客観的でも中立的でもありえない。主観的な行為であり、何がしかの偏りを持たざるをえない。測定することによって、知覚の経験が大きく変わる。測定される対象のほうも、新たな価値が加えられる。測定の対象は新たな意味と新たな価値を賦与される。管理に関わる根本問題は、いかに管理するかではなく何を測定するかにある。
②管理手段は成果に焦点を合わせなければならない。
組織は、社会、経済、個々の人間に対して、なんらかの貢献を行うために存在する。活動の成果は組織の外に表れる。社会、経済、顧客に対する成果として表れる。企業のあげる利益にしても、それを生み出すのは顧客である。内部にあるものはコストセンターにすぎない。すなわち、管理的な活動の対象となっているものはコストにすぎない。いかに効率的であろうと、馬車のムチだけをつくっている企業はつぶれる運命にある。これに対して、組織の成果は起業家的な活動の対象である。
③管理手段は、測定可能な事象のみならず、測定不能な事象に対しても適用しなければならない。
優秀な人材を惹きつけ引き止めることができないばかりに、死に向かって歩みつつある企業や産業がある。優秀な人材を惹きつけ引き止めることは、前年度の利益よりも重要である。
測定できるものは、すでに発生した事実、過去のものである。未来についての事実はない。しかも測定できるものは、ほとんどが外部ではなく内部の事象である。外部に発生する重要な事象は測定することは困難。測定と定量化に成功するほど、それら定量化したものに注目してしまう。したがって、よく管理されていると見えれば見えるほど、それだけ管理していない危険がある。
●管理手段の要件
あらゆる管理手段が七つの要件を満たさなければならない。
①管理手段は効率的でなければならない。
必要とする労力が少なく、管理手段が少ないほど管理は効果的である。管理システムの設計と利用にあたってまず検討すべきは、管理のために最小限必要な情報は何かである。
②管理手段は意味あるものでなければならない。
管理の対象として測定するものは、重要なものでなければならない。成果に影響を与える事象だけを対象とすることによって、はじめて本当の管理が可能となる。もちろん、定量化できるというだけでは測定の理由にはならない。
市場シェアのような意味を持つもの、あるいは人の補充や出勤状況など将来重要な意味をもつものに限らなければならない。
③管理手段は測定の対象に適してなければならない。
これは、管理手段の要件として重要でありながら、その設計にあたって最も守られていない要件である。
補足)
対象の測定の設定が適ているか否か。例えば、インシデント、アクシデントの数値管理の対象を全体として設定し測定するのか、もしくは、重要な局面、例えば最終工程部門において設定し測定するのか。後者のインシデント、アクシデントの数が多く、それをないがしろにすれば、企業そのものがつぶれることさえある。
④管理手段の精度は、測定の対象に適していなければならない。
正確な測定が困難であり、幅をもってしか評価できないという情報こそ重要である。大ざっぱな数字のほうが、かえって本当の姿を伝える。一見根拠があるかのごとき細かな数字こそ不正確であることを知らなければならない。
⑤管理手段は、時間間隔が測定の対象に適していなければならない。
精度と同じことは、時間間隔についてもいえる。リアルタイムに管理することが流行している。それが必要なケースもある。しかし、この種の管理が、生産プロセス以外の分野で必要になることはまれである。
⑥管理手段は単純でなければならない。
管理手段は、複雑であっては機能しない。事態を混乱させるだけである。
⑦管理手段は行動に焦点を合わせなければならない。
管理の目的は情報収集ではなく行動である。報告、調査結果、数字など管理手段となるものは、すべて管理のための行動を起こすことのできる者にまで到達しなければならない。
●真の管理とは何か
組織は人の集合である。人には、それぞれの理想、目的、欲求、ニーズがある。いかなる組織であっても、メンバーの欲求やニーズを満たさなければならない。この個人の欲求を満たすものこそ、賞や罰であり、各種の奨励策、抑止策である。給与のように定量的なものもある。しかし、個人の欲求に応えるための環境そのものは定量的ではない。定量化は不可能である。
ここにこそ、組織の本当の管理、すなわち、一人ひとりの人間の姿勢と行動の誘因となるべきものがある。人はいかに賞され罰せられるかによって左右される。彼らにとって、賞罰こそ、組織の目的、価値観、そして自らの位置づけと役割を教えるものである。
要点整理
◆コミュニケーション
●コミュニケーションについて四つの基本
①コミュニケーションは知覚である
②コミュニケーションは期待である
③コミュニケーションは要求である
④コミュニケーションは情報ではない
●上から下へ、下から上へ
「何を言いたいか」に焦点を合わせている上から下へでは、いかに懸命に行おうともコミュニケーションは成立しない。だが、耳を傾けるだけでは効果的なコミュニケーションを実現しない。下の者にコミュニケーション能力があって初めてコミュニケーションが有効となるということである。
●コミュニケーションの前提となるもの
目標管理こそコミュニケーションの前提となる。目標管理の最大の目的は、上司と部下の知覚の仕方の違いを明らかにすることにある。実はこうして同じ事実を違ったように見ていることを互いに知ること自体が、コミュニケーションである。
コミュニケーションが成立するには、『経験の共有』が不可欠だということである。
組織において、コミュニケーションは単なる手段ではない。それは『組織のあり方』である。
◆管理
●管理手段の特性
組織における管理手段には三つの特性がある。
①管理手段は純客観的でも純中立的でもありえない。
管理に関わる根本問題は、いかに管理するかではなく何を測定するかにある。
②管理手段は成果に焦点を合わせなければならない。
③管理手段は、測定可能な事象のみならず、測定不能な事象に対しても適用しなければならない。
優秀な人材を惹きつけ引き止めることができないばかりに、死に向かって歩みつつある企業や産業がある。優秀な人材を惹きつけ引き止めることは、前年度の利益よりも重要である。
●管理手段の要件
あらゆる管理手段が七つの要件を満たさなければならない。
①管理手段は効率的でなければならない。
②管理手段は意味あるものでなければならない。
成果に影響を与える事象だけを対象とすることによって、はじめて本当の管理が可能となる。
③管理手段は測定の対象に適してなければならない。
④管理手段の精度は、測定の対象に適していなければならない。
一見根拠があるかのごとき細かな数字こそ不正確であることを知らなければならない。
⑤管理手段は、時間間隔が測定の対象に適していなければならない。
⑥管理手段は単純でなければならない。
⑦管理手段は行動に焦点を合わせなければならない。
●真の管理とは何か
いかなる組織であっても、メンバーの欲求やニーズを満たさなければならない。この個人の欲求を満たすものこそ、賞や罰であり、各種の奨励策、抑止策である。組織の本当の管理とは賞罰であり、賞罰こそ、組織の目的、価値観、そして自らの位置づけと役割を教えるものである。
所 見
◆コミュニケーション
(1)『組織のあり方』を表しているコミュニケーションの質
組織におけるコミュニケーションは『組織のあり方』であるとドラッガーは述べている。その言葉に集約されている気がする。スムーズなコミュニケーションが行われ、成果があがっている組織は、基本的に四つの基本が理解されており、目標管理におけるコミュニケーションがされているということだと思う。
私が思うに、組織のあり方を表すとは、組織のレベルとコミュニケーションの質は表裏一体のものということだろうと思う。マネジメントという基本資源があるか否かの指標ともなりえ、また、マネジメントが機能するためにも組織の位置づけとして重要視されていなければならないものだと思う。
(2)コミュニケーションに著しい影響を与えているマインドセット
確かに、人間は知覚していないもの、期待していないものは、耳に、目に入ってこないものだ。仕事だからといって強制しても、なかなかスムーズにはいかない。人間は自己フィルターがあり、本来の言葉、見えているものと違う認識をしてしまうことがある。それは、それぞれの人間にはマインドセット、価値観があるからだ。人によっては顕著に表れる人もおり、コミュニケーションに著しい障害が起きることもある。
(3)自らを知ることが円滑なコミュニケーションの根本
ドラッガーの場合、人間の内面に入る込むことは、すべきではないという考え方である。私も、組織や他人が強制的に内面に入り込むことはすべきではないと思う。そのようなことをしても、人は反発するだけだし、場合によっては人権侵害になる。しかしながら、お互いにコミュニケーション能力がなければ、どちらかにコミュニケーション能力が欠けていたらコミュニケーションは成り立たない。それは、ドラッガーも述べている。
自らを知るということは、人間を知るということ。それは、コミュニケーションの第一歩だと思っている。それは、強みを自覚することにもつながる。幸福感を得ることにつながる。人間的成長につながる。環境を整え、自らを知る機会、ひいてはお互いを知る機会をつくり、互いに対話を重ねることで、お互いの個性、強みを尊重しつつコミュニケーションにおける傾向と対策を得ることができる。そして、そのことで良い仕事が可能となり、自らの成長と自己実現を可能とする。組織としても成果につながる。これは実感である。
(4)経験の共有は共通言語をつくる
ドラッガーも述べているように、経験の共有は重要なコミュニケーションではある。何よりも、一緒に経験することが、時間はかかるが近道である。経験に基づく言葉であれば、体験知識となるので共通言語となる。それによって、コミュニケーションはしやすくなる。しかし、上記に述べたように根本的ではないと思う。
(5)日本文化と欧米文化の違い
時間を短縮し、合理的に仕事をするためにも、一定の時間をかけ、内面の充実をはかり、対話を重ねる地道な努力が私は大切だと思う。欧米の契約文化、すなわち、契約した仕事の内容以外はしない、求めないという範囲内においては、ドラッガーの方法論や傾向と対策になるかもしれない。それでもコミュニケーション能力が低く、仕事に支障があるならば、解雇して終わりなのだろう。
(6)コミュニケーションの前提条件が育たない社会
今の社会は人間としての前提条件が育たない社会だ。すなわち、自分のことをわからないで社会に飛び込んでくる人が少なくない。そんな中で、仕事だけ求めても、コミュニケーションを求めてもうまくいくはずがない。コミュニケーションの前提条件となる、自らを知ることを組織のカリキュラムに入れていくことは必然であると思う。それは、強制でも人権侵害でもない。それは、組織としての成果と本人の自己実現を両立させるためであり、本質的に人間の幸せを育む機会つくることに他ならない。職業選択の自由がある。組織の価値に準ずるものとなっていることが前提だが、一人ひとりの個性を尊重し、幸せを育むために内面の充実をはかっていくことを人材育成のカリキュラムに設け、組織方針とし、その合意形成が行われていれば何も問題はない。
◆管理
(1)測定不能な人材の管理
ドラッガーは優秀な人材を惹きつけ引き止めておくことは、前年度の利益を出すことよりも重要だと述べている。まさに、全くの同意見である。優秀な人材の定義という問題があるが、私の勝手な定義として、『貢献への責任感があり、挑戦する意欲があり、自らの可能性を追求することができ、仕事もできる人材』ということにする。実際のところ、そのような人材だからといって、組織が必ずしも大切にしているわけではないのが現状だと思う。大切にするという意味がわかっていないからだ。優秀な人材であればあるほど、優秀な人材に育てば育つほど、より成長できる環境を望む。挑戦できる環境を望む。より高い目標設定、高い基準設定を望む。また、自らの存在意義、価値、評価に敏感になる。組織が現状維持に埋没したり、優秀な人材の強み、個性を真に認め、キャリアアップをはかれるステージをつくることをないがしろにすれば、利益はあがっても、優秀な人材はいずれ離れていき、未来の無い組織となる。仮死状態と化した組織となる。
(2)管理の根本哲学
ドラッガーは真の管理は賞罰であると述べている。本人の欲求、ニーズを満たすもので且つ組織の目的、価値観に符号したものでなければならいと言っている。異論はない。
私は、極めて重要なのは『組織の価値観』に符号した管理がされるかだと思っている。全ての根本であり、ここの軸がブレていたら、元も子もない。かりに管理手段の七つの要件を満たしていたとしても、組織の価値観を無視した私的な賞罰、奨励などがされた場合は、組織をゆがめる。不信感につながる。
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