『組織マネジメントの研究Vol.11』【マネジャー②】
テーマ毎のまとめ(マネジメント『基本と原則』/P.F.ドラッガー)
11.マネジャー②
【1】マネジャーの仕事
●二つの役割
マネジャーには、二つの役割がある。
①第一の役割は、投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造することである。
それは、オーケストラの指揮者に似ている。オーケストラでは、指揮者の行動、ビジョン、指導力を通じて、各パートが統合され生きた音楽となる。したがってマネジャーは、自らの資源、特に人的資源のあらゆる強みを発揮させるとともに、あらゆる弱みを消さなければならない。これこそ真の全体を創造する唯一の方法である。マネジャーはマネジメントの一員として、(1)事業のマネジメント、(2)人と仕事のマネジメント、(3)社会的責任の遂行という三つの役割を果たさなければならない。この三つのうちの一つでも犠牲にする決定や行動は、組織全体を弱体化させる。あらゆる決定と行動は、三つの役割すべてにとって適切でなければならない。
②第二の役割は、そのあらゆる決定と行動において、ただちに必要とされているものと遠い将来に必要とされているものを調和させていくことである。
いずれを犠牲にしても組織は危険にさらされる。今日のために明日犠牲となるものについて、あるいは明日のために今日犠牲となるものについて計算する必要がある。それらの犠牲を最小にとどめなければならない。それらの犠牲をいち早く補わなければならない。
●マネジャーの仕事
あらゆるマネジャーに共通の仕事は五つである。
①目標を設定する。②組織する。③動機付けとコミュニケーションを図る。④評価測定する。⑤人材を開発する。
これらの五つの基本的な仕事すべてについて、自らの能力と仕事ぶりを向上させれば、それだけマネジャーとして進歩する。
●マネジャーの資質
マネジャーには根本的な資質が必要である。真摯さである。
最近は、愛想よくすること、人を助けること、人付き合いをよくすることがマネジャーの資質として重視されるが、そのようなことで十分なはずがない。
うまくいっている組織には、必ず一人は、手を取って助けせず、人づきあいもよくないボスがいる。この種のボスは、とっつきにくく気難しく、わがままなくせに、しばしば誰よりも多く人を育てる。好かれている者よりも尊敬を集める。一流の仕事を要求し、自らにも要求する。基準を高く定め、それを守ることを期待する。何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えない。真摯さよりも知的な能力を評価したりはしない。
このような資質を欠く者は、いかに愛想がよく、助けになり、人付き合いがよかろうと、またにいかに有能であって聡明であろうと危険である。そのような者は、マネジャーとしても、紳士としても失格である。
マネジャーにできなければならないことは、そのほとんどが教わらなくても学ぶことができる。しかし、学ぶことのできない資質、後天的に獲得することのできない資質、始めから身につけていなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである。
●最大の貢献
マネジャーの仕事は、十分な大きさと重さのあるものにしなければならない。マネジャーとは、組織の最終成果に直接の責任を持ち貢献を行う人間であるがゆえに、その仕事は、常に最大の責任と最大の挑戦を伴い、最大の貢献を可能にするものでなければならない。
●マネジャーの職務設計の間違い
①職務を狭く設計すること
もっとも一般的なまちがいは、職務を狭く設計し、優れた者であっても成長できなくすることである。
欲求不満に陥る。結局、さしたる働きもしなくなる。マネジャーの仕事は、その職にあるかぎり、学び、育つことのできるものにしなければならない。狭く設計した職務は、人と組織を知らぬ間に麻痺させる。
②補佐役という職務
補佐役という職務、つまり仕事とはいえない職務はさらに有害である。
マネジャー仕事には、目的、目標、機能がなければならない。自ら貢献できなければならない。責任ある存在とならなければならない。ところが、補佐役には、直接貢献できる仕事がない。独自の目的、目標、機能がない。ボスが必要とすることや、ボスに売り込むことのできたことをするにすぎない。そのような仕事は人を堕落させる。補佐役という職務は、その任務が明確に規定されているならば、若手のマネジャーにとって優れた訓練となる。期間は限定する必要がある。一定期間の任務を終えたならば、マネジャーの仕事に戻してやらなければならない。
③単なる調整役となること
マネジャーは、単なる調整役ではなく、自らも仕事をするプレーイング・マネジャーでなければならない。マネジメントとは一つの仕事である。しかしそれは、マネジャーが専念しなければいけないほど時間を要する仕事ではない。仕事を持たないことは耐え難い。特に働くことが習慣となっている者はそうである。十分な仕事を持たないことは、本人のためによくないだけではない。やがて、働くことの感覚を忘れ、尊さを忘れる。働くことの尊さを忘れたマネジャーは、組織に害をなす。
④会議や調整が必要な職務とすること
マネジャーの仕事は、彼一人あるいはその直接の部下を使うだけで遂行できるものにしなければならない。会議や調整が必要な職務はまちがっている。
⑤地位と責任の代わりに肩書を与えること
マネジャーの仕事の不足をポストで補ってはならない。報奨をポストで補ってもならない。それは期待を与える。肩書は地位と責任を意味する。地位と責任の代わりに肩書を与えることは、あえて問題を起こそうとするに等しい。
⑥『後家づくり』の仕事
理由はわからないが、その仕事についた優秀な者が次々に倒れる職務がある。たまたま一人の人間のなかに見られない二つの資質を併せ持つ者が、結果としてそのような職務をつくりだし、しかもうまくこなしてしまったために、職務として確立されたのである。『後家づくり』の仕事は設計しなおさなければならない。
●マネジメントの限界の法則
一人が監督できる部下の数には限界があるといういわゆる『マネジメント限界の法則』を説く。しかし、そのような法則への信奉はマネジメントをゆがめる。マネジメントの階層を積み重ねるだけである。部下が何人いるかは問題ではない。重要なのは、人間の数ではなく関係の数である。部下との関係は、マネジャーの扱う関係の一つにすぎない。
●職務設計の視点
マネジャーの仕事は四つの視点から設計すべきである。
①マネジャー本来の機能、すなわち、マネジャーの仕事そのものがある。これは継続的な職務である。
例)市場調査部長、製造部長
②貢献の責任である。
個々のマネジャーに対し、組織や上司が設定する責任である。この貢献の責任が、職務規定に示したものを超えていることが、優れた成果をあげる者の印である。
③マネジャーの仕事は、上、下、横との関係によって規定される。
④マネジャーの仕事は、必要とする情報とその情報の流れにおける彼の位置によって規定される。
仕事に必要な情報が何であり、どこから手に入れるかを常に考えなければならない。それらの情報を提供してくれる者に対して、必要とする情報の内容のみならず、その理由も理解してもらわなければならない。
これら四つの視点から自らの仕事を主体的に知ることは、個々のマネジャー本人の責任である。
彼に期待すべきことは、(1)自らの職務を書き表し、(2)彼自身ならびに彼の部門が責任を負うべき成果と貢献について提案し、(3)他との関係を列挙し、(4)必要とする情報と他に貢献できる情報を明らかにすることである。
【2】マネジメント開発
●体系的に取り組む(マネジメントできる人材をどう体系的に育てるか)
明日のマネジメントを行う者を試し、選び、育てて、初めて今日の意思決定を責任あるものとすることができる。マネジャーは育つべきものであって、生まれつきのものではない。したがって、明日のマネジャーの育成、確保、技能について体系的に取り組まなければならない。運や偶然に任せることは許されない。
●マネジメント開発(マネジメント人材の育成)にあらざるもの
①いかなる種類のセミナーよりも、実際の仕事、上司、組織内プログラム、一人ひとりの自己啓発プログラムのほうが大きな意味をもつ。マネジメント開発とは、セミナーに参加することではない。セミナーは道具の一つである。それ自体マネジメントではない。いかなるセミナーにせよ、組織全体と個々のマネジャーのニーズに合うものでなければならない。
②マネジメント開発は、人事計画やエリート探しではない。それらのものはすべて無駄である。有害でさえある。組織がなしうる最悪のことは、エリートを育成すべく他の者を放っておくことである。彼らは軽んじられたことを覚えている。成果があがらず、生産性は低く、新しいことへの意欲は失われる。他方選ばれたエリートの半分は、四十代にもなれば、口がうまいだけだったことが明らかになる。
③マネジメント開発は、成果をあげさせるためのものである。強みを発揮させるためのもの、人の考えではなく、自分のやり方によって存分に活動できるようにするためのものである。雇用主たる組織には、人の性格をとやかくいう資格はない。雇用関係は特定の成果を要求する契約にすぎない。他のことは何も要求していない。被用者は、忠誠、愛情、行動様式について何も要求されない。要求されるのは成果だけである。
要点整理
◆マネジャーの仕事
◎マネジャーの二つの役割
①第一の役割は、投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造することである。
マネジャーはマネジメントの一員として、(1)事業のマネジメント、(2)人と仕事のマネジメント、(3)社会的責任の遂行という三つの役割を果たさなければならない。
②第二の役割は、そのあらゆる決定と行動において、ただちに必要とされているものと遠い将来に必要とされているものを調和させていくことである。
◎マネジャーに共通の五つの仕事とは
①目標を設定する。②組織する。③動機付けとコミュニケーションを図る。④評価測定する。⑤人材を開発する。
◎マネジャーの資質とは
マネジャーには根本的な資質が必要である。真摯さである。
◎マネジャーの仕事が最大の責任、挑戦、貢献が可能とするものへ
マネジャーの仕事は、十分な大きさと重さのあるものにしなければならない。その仕事は、常に最大の責任と最大の挑戦を伴い、最大の貢献を可能にするものでなければならない。
◎マネジャーの職務設計の間違い
マネジャーの職務設計の間違いは①職務を狭く設計すること、②補佐役という職務、③単なる調整役、④会議や調整が必要な職務とすること、⑤地位と責任の代わりに肩書を与えること、⑥『後家づくり』の仕事である。
◎マネジメントの人数的限界はあるか
マネジメントの限界の法則、すなわち、一人が監督できる人数に限界を問うのは間違っている。重要なのは、人間の数ではなく関係の数である。部下との関係は、マネジャーの扱う関係の一つにすぎない。
◎マネジメントの仕事はどのように設計すべきか
マネジャーの仕事は四つの視点から設計すべきである。
①マネジャーの仕事そのもの、②貢献の責任、③上、下、横との関係、④必要とする情報、これら四つの視点から自らの仕事を主体的に知ることは、個々のマネジャー本人の責任である。
彼に期待すべきことは、(1)自らの職務を書き表し、(2)彼自身ならびに彼の部門が責任を負うべき成果と貢献について提案し、(3)他との関係を列挙し、(4)必要とする情報と他に貢献できる情報を明らかにすることである。
◆マネジメント開発
◎マネジメントできる人材をどう体系的に育てるか
明日のマネジャーの育成、確保、技能について体系的に取り組まなければならない。
◎マネジメントの人材育成にあらざるもの
①いかなる種類のセミナーよりも、実際の仕事、上司、組織内プログラム、一人ひとりの自己啓発プログラムのほうが大きな意味をもつ。セミナーは道具の一つである。
②マネジメント開発は、人事計画やエリート探しではない。組織がなしうる最悪のことは、エリートを育成すべく他の者を放っておくことである。
③マネジメント開発は、成果をあげさせるためのものである。人の性格を変え、人を改造するためのものではない。強みを発揮させるためのもの、人の考えではなく、自分のやり方によって存分に活動できるようにするためのものである。要求されるのは成果だけである。
所 見
◆マネジャーの仕事
マネジメントの大きな役割は、人、物、金、時間などの総和以上のものを生み出すことというのは、その通りだと思う。その中でも、それぞれの人の強みを引き出し、強みを結集させ、統一することによって、最大のパフォーマンスをつくることが、重要な役割だと思う。
マネジャーの必要な資質は真摯さということについては、異論は全くない。しかし、より根本的な資質を期待するのであれば、人間の幸福を追求する姿勢である。確かに人間が感じる幸福の価値基準はさまざまではあるが、人間の幸せを希求する根本的な哲学的姿勢が最も重要だと思う。それは、どうしたら、職員が幸せを感じ、組織全体としての幸福度があがり、社会の幸せづくりにもつながり、成果もあがるかということだ。常にその視点があれば、マネジメントに必要なことは自ずと見えてくる。
マネジャーの仕事、特にトップマネジメントの仕事においては、権限に制限をかけるのはあまり良くない。もちろん、責任も伴う。暴走したらどうするんだ?という疑問があるかもしれないが、任期制にしていれば、最悪の状態が続くことは防ぐことができる。また、それ以前にきちんと組織内で育成した上で、適任者を選んでいたのかという問題がある。トップマネジメントにおいて、権限に制約をかけると、能力があっても発揮できなくなってしまう。成長もできなくなってしまう。また、何より組織の発展にブレーキがかかってしまう。大いに挑戦できる環境を提供することは大切なことだと思う。
◆マネジメント開発(マネジメント人材の育成)
マネジメントという基礎資源は、すべての資源の中核を担うものであり、それ抜きに組織は機能しない。したがって、常にマネジメント人材を開発していくことが必要だと思う。ドラッガーが述べているように、発掘し、試し、育成してく必要があると思う。そして、小・中規模の組織であれば、ほぼ全職員がマネジメントの一員となるため、全体で開発していくことが必要だ。
マネジメント人材の育成において、外部セミナー、研修はあくまで道具であり、それらをただ活用すれば、マネジメントの人材が育つわけではない。あくまで道具である。育成の軸は組織内にあり、育成方針、『育成哲学』が無ければならないと思う。外部機関のセミナー等の多活用は逆効果の場合もありうる。組織が目指している本質からかけ離れた指導を受け、知識を身に着けて戻ってきたことにより、組織が混乱に陥ることもある。成熟した人間であれば、あくまで活用する、参考にするにとどまるはずだが、そうでない場合は、感化されて戻ってくることもあるからだ。当然のことながら、マネジメント人材の育成は、組織の使命、ビジョン、方向性との整合性のもとに行われるべきである。基本と原則として、自らの組織内でマネジメント人材を育成するプログラム、一人ひとりの自己啓発プログラムが絶対に必要である。
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