人間味溢れる組織づくりが地球の未来を創造する
~プロデュース・マネジメント~

『組織マネジメントの研究Vol.4』【公的機関のマネジメント】

テーマ毎のまとめ(マネジメント『基本と原則』/P.F.ドラッガー)

7.公的機関のマネジメント

【1】多元的社会の到来

●現代社会の成長部門
現代社会において、企業は組織の一つにすぎない。政府機関、軍、学校、病院、労働組合、法律事務所、会計事務所、諸々の団体など、いずれも組織である。そして、いずれもマネジメントを必要とする。

●サービス機関が成果をあげる方法
公的機関であれ、企業内サービス部門であれ、サービス機関にとって成果をあげることは可能である。われわれに与えられた選択は、サービス機関が成果をあげるための方法を学ぶことにほかならない。

【2】公的機関不振の原因

●三つの誤解
①企業のようにマネジメントしていない。
・企業のようにマネジメントせよというのは間違った処方箋である。
・公的機関に欠けているのは、成果であって効率ではない。
・公的機関の問題の根本は成果をあげられないことである。
②人材がいない。
・それは間違いである。
・企業の人間が公的マネジメントに任命されても、ただちに官僚になる。
③目的や成果が具体的でない。
・一面しか見ていない。
・そもそも事業の定義は、公的機関だけでなく企業の場合も抽象的たらざるをえない。
・全人格の発達という学校の目的は、定量的にはつかめない。だが、「小学三年までに本を
読めるようにする」との目標は具体的である。かなり正確に測定できる。

●公的機関と企業は何が違うのか
公的機関と企業の基本的な違いは、支払いの受け方にある。企業は顧客を満足させることによって支払いを受ける。公的機関は予算によって運営される。収入は、活動と関係ない公租公課による収入から割り当てられる。企業内サービスについてもいえる。支払いは間接費、すなわち予算から受ける。企業内サービス部門は、公的機関と同じ性格を持ち、同じ行動をとる。予算型組織では、成果とはより多くの予算獲得である。業績とは、予算を維持ないし増加させることである。したがって、市場への貢献や目標の達成は二義的となる。予算は、後見ではなく目論見に関わるものにほかならない。

●成果をあげるなかれ
予算型組織においては、効率やコストは美徳ではない。予算型組織の地位は、予算の規模と人の数で計られる。予算を使い切らなければ、次の年度には予算を減らせると議会や役員会に思わせるだけである。予算型組織では、効率よりも成果のほうが危うくされる。予算に依存することは、まちがったもの、古くなったもの、陳腐化したものの廃棄を難しくする。その結果、公的機関は、非生産的な仕事に関わりを持つ者を大勢抱えることになる。企業は、成果と業績に対して支払いを受けており、非生産的な陳腐化したものは遅かれ早かれ顧客によって葬られる。予算型組織はそのようなテストを受けない。既に行っていることは高潔であるに決まっており、公益に合致するに決まっているとされる。人は報われ方に応じて行動する。それは、報酬、昇進、メダル、ほめ言葉のいずれであっても変わらない。病院や大学のように、成果ではなく、活動すなわちコストに対して支払いを受けることも誤った方向づけにならざるをえない。しかし、それを少なくし、対策を講じてかなりの程度中和することはできる。

【3】公的機関の条件

●六つの規律
あらゆる公的機関が、次の六つの規律を自らに課す必要がある。
事業は何か、何であるべきかを定義する。
②その目的に関わる定義に従い、明確な目標を導き出す。
活動の優先順位を決める。
成果を規定し、期限を設定し、成果をあげるべく仕事をし、責任を明らかにするためである。
成果の尺度を定める。
例)電話会社の顧客満足度、例)識字率
⑤それらの尺度を用いて、自らの成果についてフィードバックを行う。
成果による自己管理を確立する。
目標に照らして成果を監査する。

●公的機関の種類
公的機関が成果をあげる上で必要とするのは偉大な人物ではない。仕組みである。計画と活動に対して支払いを受けるという意味での公的機関は、大きく分けて三種類ある。

①自然的独占事業(電話事業、電力事業、企業内研究所など)
必要なことは組織構造を単純化すること。公的機関の中では成果にもっとも近いところにいるので、国有化すべきではない。しかしながら、規制のもとにない自然的独占事業は、成果があがらず、効率もあがならい。顧客を搾取する。
②予算から支払いを受けて事業を行う公的機関(公益の学校や病院)
これらのサービス機関に必要なのは、所有は社会化するが競争は行わせること。この種のサービス機関が生み出すものは、必要の充足である。成果についての最低限の基準を設けなければならない。監督や規制が必要でもマネジメントは独立させるべき。顧客となる者は、複数のサービス機関から選択できることが望ましい。水準以上の成果をあげるには競争が必要である。

●行政組織
③目的と同じように手段が意味を持ち、したがって手段の統一性が不可欠な公的機関がある。
政府機関(国防、司法)、行政機関(伝統的な政治学における)など、この種の組織は、公共財ではなく、統治を提供する。この種の機関では、独立したマネジメントはありえない。競争は望ましくない。政府のもとに置き、政府の直接の運営いゆだねなければならない。それでも、目標と優先順位と、成果の測定は不可欠である。この種の機関は独立した監査を必要とする。成果からのフィードバックを行う手立てがないからである。唯一の規律は分析と監査である。行政組織は社会の中核的存在である。しかもコストのかかる存在である。あらゆる行政組織とあらゆる立法行為が恒久たりえないことを前提としなければならない。新しい活動、機関、計画は、期間をかぎり、その間の成果によって目的と手段の健全さが証明された場合にのみ、延長を認めるようにしなければならない。

☆行政機関は自らに特有の使命、目的、機関について徹底的に検討しなければならない。

 

所 見

多元的社会の到来

マネジメントが企業特有のものではなく、行政、学校、病院、NPO、士業、労働組合、各種団体などあらゆる組織に必要だというドラッガーの考えに全く異論はない。残念なことに、未だにマネジメントは「営利企業特有のものだ」という考えがあるように思う。また、選任されたマネジメントスタッフ任せになっているように思う。

前者については、それぞれの機関によって成果指標が違うだけで、マネジメントの仕組みはどのような組織にも必要だということを認識していただくことが必要だと思う。

そして、後者については、マネジメントスタッフとして選任を受けた当事者が、マネジメントという言葉は知っていても、学ぶ機会もなく、やったことがない人がほとんどで、正直、ポテンシャル任せになっていることがほとんどだと思う。それでは、そこで働く者たちはたまったものではない。

経験から言えることは、トップマネジャーはもとより、マネジメントスタッフには特有の資質が必要だということだ。ドラッガーが述べているように、人間には強みがある。しかしながら、マネジメントに強みを持たない人物がやっても、本人にとっても組織にとっても、良い結果にはならない。特にマネジメントに強みを持たない人物が組織の中枢を担った場合は、致命傷にさえなる。名プレイヤーは必ずしも名監督にはならないことを理解しなけえばいけないと思う。

そして、指名する側の問題もある。マネジメントの基本と原則がなければ、どのような人物が適任かという尺度をもたない。物差しがない。したがって、適材適所とは程遠い人事が行われることにもなりかねない。これも組織がおかしくなる大きな原因の一つだと思う。

日本は生産性、ワークライフバランス、ハラスメントが強調されるようになった。それらの変化はグローバル化やディーセントワークの考え方の普及などの成果ではあるかもしれないが、部分的で本質的な議論がされていないように思う。一人ひとりが個性を発揮して幸福感を醸成し、組織が特有の使命を果たし、社会貢献するためには、マネジメントは不可欠である。そしてマネジメントを担う者には、マネジメントにおける特有の強みが必要である。また、その前提として、マネジメントを知識や経験として学ぶ機会や選ぶ側のしっかりとした尺度が必要だと思う。

公的機関不振の原因、公的機関の条件

準公的機関にいたこともあり、行政機関とも一緒に仕事をしてきた経験もある。行政機関の方々が皆、怠惰なわけでもなく、無責任なわけでもない。国民のために、県民、市民のために、使命感に燃えてがんばっている行政職員の方々と出会い、こちらが触発されたことも何度もある。行政職員だからということはない。同じ血の通った人間であり、打てば響く人たちは少なくなかった。

公的機関にもマネジメントが必要だが、企業と同じマネジメントが必要だとは思わない。成果指標が全く違うので、マネジメントの仕方も違う。ただ、成果指標が単純明快な営利企業ではないし、予算ありきなので、やり方は当然変わってくるように思う。

事業の定義を徹底検討して、何のための事業をやっているのか全体で共有化し、目標を定め、成果指標を明確にし、結果に対するフィードバックを行うという仕組みを構築することは、重要なことだと思う。そして補足すれば、公的機関にも、準公的機関にも、企業内サービス部門にもイノベーションの意識は必要だと思う。そうでなければ、一人ひとりの職員、スタッフのモチベーションがあがるはずはないし、士気が上がるはずはない。特にそういう環境、土壌を意識的につくらないと優秀な人材は、やはり辞めていってしまうと思う。

特に強調すべきは、人事異動の激しい行政機関においては、せめて『良い仕事の仕組みづくり』は大事だと思う。資料の引継ぎだけではなく、成果指標に基づく良い仕事の仕組みの引継ぎがされれば、異動してきた職員も短期間に入っていけるし、市民が年度替わりの度に対応の悪さを感じることも減るはずである。

https://www.flat-management.jp/contact

タグ: ,